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前立腺がんの日本での患者数はここ十年で二倍に増加

前立腺がんは、欧米では男性のがんによる死亡数の約二〇%を占める
食事の欧米化からいずれは欧米並に男性癌死の上位にランクされる。日本でも患者数は急速に増加
平田 輝夫(平田泌尿器科院長)

<天皇陛下の手術>
 前立腺がんと診断された天皇陛下の手術が一月中旬に行われましたが、手術は前立腺やリンパ節などを摘出し、がんを取り除くものでした(手術時間は三時間四〇分)。がんは手術中の組織検査でも転移は確認されず、二月の上旬に約三週間の入院を経て退院されました。がん転移を調べる病理検査の結果では、前立腺の被膜の一部に腺がんの浸潤が認められたが、被膜を破って外には出ていないこと、がん組織は摘出した部分にとどまっており、前立腺周辺のリンパ節には転移はなく、すべて取り出せたという発表がされています。

 ●前立腺は男性の膀胱の出口を取り囲んでいる器官で、精巣から分泌された男性ホルモンによって成長します。前立腺の働きは精液をつくることですか。
 平田「そうです。前立腺の一番の機能は、精液の約三割に相当する外分泌液である前立腺液をつくることです。通常、前立腺は二〇歳を過ぎる頃から少しずつ萎縮するのですが、五〇歳を過ぎてから再び大きくなることがあります。これが前立腺肥大症で、近年は増加傾向にあります」

<食事の欧米化から患者数は日本でも急速に増加>
 ●前立腺がんもやはり中高年に多い病気ですか。
 平田「前立腺がんは中高年特有の病気で六〇歳以上の男性に好発します。欧米では男性のがんによる死亡数の約二〇%を占めるなど、これまでは欧米に多い男性のがんと言われてきましたが、最近は本邦でも急速に患者数が増加しています。六〇歳以上の男性の約〇・一〜〇・三%に見られるのですが、ここ十年で約二倍にも増加しています。原因としては男性ホルモンが深く関係していますが、前立腺がんの発生に関与する危険因子として遺伝や環境因子のほか、インスリン様増殖因子であるIGF、またがんの発育を抑制すると云われるβカロチンなどが知られています。前立腺肥大症と同様に食生活の欧米化が患者数を増加させると考えられていて、いずれ欧米並みの男性癌死の上位にランクされる疾患となるでしょう」

<早期では自覚症状のないことが多い>
 ●天皇陛下は自覚症状はないものの前立腺の異常を示す血液検査の数値が、ここ二、三年やや高い状態が続いていたようです。前立腺の組織の一部を採取する病理検査の結果、がん細胞の存在、腫瘍も複数確認されましたが、進行度の遅い高分化型の腫瘍でした。また前立腺以外への転移はなく、摘出すれば根治の可能性が高いと判断、手術となりました。
 平田「前立腺がんが多く発生するのは前立腺の外側の部分です。早期の場合では症状のないことが多いのですが、前立腺肥大症と同じように排尿困難が起きることもあります。進行に伴い排尿障害が生じるほか、骨転移により骨痛や骨折、神経障害などの症状がみられるようになります。転移については、特に腰椎骨盤骨の場合が多いようです」

<腫瘍マーカーでよく利用される前立腺特異抗原(PSA)>
 ●中心となる検査方法には、どのようなものがありますか。
 平田「前立腺肥大症と同様、身体所見のひとつである直腸診のほか、腫瘍マーカーや画像診断が用いられます。代表的な腫瘍マーカーには、前立腺特異抗原(PSA)やγセミノ蛋白がありますが、最近ではPSA検査が主体で、経過観察や治療の効果判定などにもこのPSA検査がよく用いられています。画像診断では経直腸的超音波断層法、CTなどが用いられますが、骨への転移が疑われる場合にはアイソトープを使用した骨のシンチグラムにより診断が行われます。尚、前立腺がんの臨床病期は、表に示すごとく、これをもって治療方針の一助としています」
 ●PSAについてもう少し詳しく教えて下さい。
 平田「がんが体の中にできると血液中に特定の物質が増えますが、これを腫瘍マーカーと呼んでいます。前立腺がんでは、PSA(前立腺特異抗原)という前立腺の組織からしかつくられない蛋白質が増加するため、血液中のこのPSAの値で前立腺がんができているかどうかを調べることができます。PSAやγセミノ蛋白のほかにも前立腺関連腫瘍マーカーにはPAPなどもありますが、現在ではPSAが診断用としても盛んに利用されています。一応、基準値はありますが、前立腺肥大症、前立腺炎でもその基準値を超えることがあるので、すぐに前立腺がんと断定することはできません。私達はこれらの鑑別診断をする目的でPSA値が高い場合はフリーのPSAとトータルのPSAの比率を測定し「PSAF/T」が低い場合は二泊三日で入院して、経直腸的前立腺生検法を行い病理組織診断で最終的に前立腺がんかどうかを決定しております」

<四段階の病期と治療法について>
 ●前立腺がんの病期分類について教えてください。
 平田「前立腺がんの病期(ステージ)にはいくつかの分類方法がありますが、日本泌尿器科学会では前立腺がんを病期Aから病期Dの四段階に分けています。病期Aは臨床的潜在がん、病期Bは前立腺内に限られた早期がんです。病期Cは局所浸潤がん、病期Dはリンパ節やその他の臓器へ転移している状態です」
 ●治療にはいくつかの方法がありますね。
 平田「治療方法についてはホルモン療法や外科的切除術、放射線療法がありますが、ホルモン療法は最も基本となる治療法です。前立腺がんは男性ホルモンの影響下にあるため、男性ホルモンによるがん細胞の増殖を防ぐために女性ホルモン療法が行われています。女性ホルモンや下垂体への作用から男性ホルモンの分泌を低下させるLHーRHアナログなどの投与、また精巣を摘除する方法もあります」
 ●天皇陛下の場合、手術は前立腺全摘除、両側閉鎖リンパ節切除でした。外科的な手術が行われるのはどの病期になりますか。
 平田「外科的切除術は病期A2からB2までの前立腺内にがんが限局されているときに、根治的前立腺全摘除術が行われます。放射線療法は前立腺の患部に放射線を照射することによりがん細胞を破壊するものです。患者さんの身体的な負担が軽いことから、通院でも治療することが可能ですが、正常な細胞も放射線によって障害されることから治療後に血尿や血便、尿失禁などの後遺症が現れる場合もあります。骨転移による神経痛の和痛目的で本邦では多く行われているようですが、欧米では本治療が主体となってきております」
 ●一般の前立腺全摘出手術はどのように行われるのですか。
 平田「まず下腹部を開腹後、膀胱頚部で前立腺を皮膜ごと尿道と膀胱から切り離し、がん細胞がある組織を取り出した後は、付随する精嚢腺、リンパ節も取り除き、最後に膀胱と尿道をつなぎ合わせるという方法で行われます。手術の際に、前立腺の後側にある直腸を傷つけたり、また静脈の止血がうまくいかず大量出血することもありますが、専門医による手術ではその危険性は極めて少ないといえるでしょう。尚、最近では腹腔鏡下で本手術を行う事が可能となりました」

登録項目:掲載記事より   投稿者 :メディカルはこだて編集長  登録日 :2006年01月18日


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