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特集「こころの病」 うつ病

「頑張ってしまう生活習慣」を変えることが治療の基本
多田 直人(医療法人社団五稜郭メンタルクリニック院長)

「うつ病」というと、文字通りに「憂うつな気分になり、落ち込み、元気がなくなる」病気と考えている方が多いと思います。確かにそのとおりなのですが、実はもっと正確には「うつ病」は「頑張ってしまう」病気なのです。

うつ病は生活習慣病

 うつ病は「人に気を遣う」「周囲の期待にこたえようとしてつい頑張ってしまう」「人に頼まれたら断りきれない」「引き受けたら完璧にやらないと気が済まない」などの生活習慣を身につけてしまった人が、ついつい頑張って、いろいろ抱え込んだり背負い込んだりしすぎて、ゆとりをなくしてしまった状態です。いわば「いっぱいいっぱい」になった状態、「電池切れ」の状態がうつ病です。

うつ病の症状

 ①電池切れになり、「ゆとり」がなくなると、とてもせっかちになり、不安や焦りが強まります。また、集中力がなくなり、頭が働かなくなり、決断力が低下し、物忘れが多くなります。物事を悪いほう悪いほうへ考えてしまいます。気分が落ち込み、憂うつになり、孤独感や猜疑心が強まります。
 ②外出したり人に会ったりするのが億劫になります。全身がだるくなり、疲れやすくなります。
 ③食欲がなくなり、体重が減少します。ただし、疲れていると食欲はないのに無性に甘いものを食べたくなるもので、過食して逆に体重が増加することもあります。若い女性の場合、過食した後に吐いてしまうことがあります。
 ④夜不眠になります。精神的に疲れると、眠りが浅くなり、夢を多く見たり、早く目が覚めたりして、起床後も疲れが取れなくなります。そのためになかなか起きられず、かえって寝すぎることもあります。
 ⑤さまざまな体の症状を伴います。うつ病の人はいつも気負っていて体に力が入っているので、いちばん多いのは肩凝り・頭痛です。腰痛や顎関節症、全身のあちこちの筋肉痛・関節痛、手足のしびれ感もよく見られます。
 ⑥自律神経の症状としては、めまい・たちくらみ、耳鳴り、動悸・息切れ、異常に多い発汗、上半身のほてりなどがあります。
 ⑦胃腸症状としては、吐き気・嘔吐、胃痛・胃のもたれ感、下痢・便秘が見られます。
 ⑧不安感や取り越し苦労が絶えなくなり、それが激しくなると過呼吸発作やパニック発作(息苦しさ、激しい動悸、意識が遠のく感じなどがして、「このまま死んでしまうのではないか」「この場で気を失ってしまうのではないか」というパニック状態)が起きます。そのためにしばしば救急外来の受診を繰り返すこともあります。
 また、更年期障害、自律神経失調症、不安神経症、パニック障害などの診断を受けて治療しているのに病気が一向によくならないとき、うつ病を疑ってみなければなりません。というよりも、最初に説明したような「生活習慣」をもっていて(本人は「性格」「性分」だと思っているものです)、このような諸症状がある場合、それはまず間違いなく「うつ病」でしょう。

うつ病の治療

 生活習慣病ですから、その治療は基本的には「頑張ってしまう生活習慣」を変えることです。他の生活習慣病と同様に、こつこつと練習を続けることで「生活習慣」は変えられます。
 そして、もう一つ大事なのが薬物治療です。基本的には抗うつ薬・抗不安薬などを服用します。薬が習慣になってしまうのではないかと心配される方がいます。けれども、うつ病が改善すると薬は徐々に不要になり、自然とやめられるものです。まずは安心して専門医の治療を受けましょう。

周囲の人たちの接し方

 よく言われるように、うつ病に「励まし」は禁物です。また、周囲が本人の病状に一喜一憂したり、治療の成果を期待しすぎたりするのも好ましくありません。うつ病の人は期待にこたえようとしてついつい頑張ってしまうからです。
 気分転換とかストレス発散と称して、ドライブに誘ったり、飲みに連れ出したりすることがよくあります。しかし、これは避けるべきです。うつ病で滅入っているはずの本人を連れ出すと、本人は気を遣い、周囲の期待に応えようとしてハイ・テンションになります。周囲の人は「えっ、この人、ホントにうつ病?」と思ったり、「こんなに元気になった。やっぱり誘ってよかった」と考えたりします。けれども、本人はその後で精根使い果たし、逆に疲れ果てて一層ガックリと落ち込むものです。
 周囲は気を遣ったり、口出ししたりせずに、少し距離を置いて接しましょう。うつ病の人は、気を遣われるとかえって気を遣い、疲れてしまうからです。
 また、子供のうつ病はよく「不登校」という症状で現れますが、周囲が登校させようとすればするほど、子供はどんどん「ゆとり」を失い、登校できなくなってしまいます。お年寄りがうつ病で「体力」がなくなると、外出したり散歩したりできなくなりますが、家族が「歩けなくなったら困る」からと「歩く練習」をさせればさせるほど、どんどん体力がなくなっていきます。逆に一ヶ月ほども入院・休養してもらうと、シャキシャキと歩けるようになるものです。スポーツ選手の「スランプ」状態も実は「うつ病」ですから、練習せずに休養をとり、気分転換すると治るのです。

まとめ

 このように、焦ると逆効果になるので、周囲の人たちも「うつ病」について十分に理解し協力することが大切です。うつ病は「生活習慣病」であり、「頑張ってしまう」病気だということを忘れないことです。
 決して厄介な病気ではなく、きちんと治療すると早く楽になりますから、まずはかかりつけ医、できれば専門医に気楽に相談してみましょう。

登録項目:掲載記事より   投稿者 :メディカルはこだて編集長  登録日 :2006年03月28日


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